カウント2.99!!

カウント3が聞こえるその日まで

王者の孤独を埋めた者 SANADAについて

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オカダ・カズチカは強い。強くて、デカくて、カッコいい。それで跳べるし最近は喋れるようになってきたし、三拍子どころか四拍子も五拍子も揃ったレスラーだ。

 

しかしながら、「強すぎる」というのはプロレスラーにとって時に弱点にもなる。WWEにはブロック・レスナーというプロレスラーがいる。総合格闘技では元UFCヘビー級王座のタイトルを、プロレスラーとしてはWWEユニバーサル王者のタイトルを獲得した世界最強といってもいいレスラーだ。

 

彼はIWGPのベルトを所持していたこともあるが、新日本プロレスのレスラーに負けることを嫌い、アントニオ猪木IGFのリングを借りて、カート・アングルに負けて、帰ったという事件があった。

 

私の勝手な予測だが、レスナーに勝利しても違和感のないプロレスラーが当時の新日本にはいなかったというのも試合が組まれない理由の一つではなかったかと思う。ことプロレスに置いて、「絶対王者」という看板は王者自身の首を絞めてしまいかねない。

 

強者のジレンマ

「虎はなにゆえ強いと思う?もともと強いからよ。」漫画『花の慶次』で慶次が放つ禅問答のような言葉である。最初から強い生き物は、訓練などしなくても、他の生物を圧倒してしまう。食物連鎖の頂点に位置する生物とはそうした生まれながらの強さを持ったものであるという。

 

では「プロレスラー」における「強さ」とは、という何十年も前から議論され尽くしている話になるのだが、感歎に言ってしまえば重要なのは次の2つだ。

「良い試合をすること」そして「勝つこと」だ。

 

オカダ・カズチカは年間ベストバウトを様々な相手に何度も受賞してきた。ただ強いだけではない。しっかりと相手の持ち味を引き出し、その上で完全に勝利する。入場から勝利後のマイクまで、心からプロレスを楽しんでいる様子が伺える。外道の手から離れ、赤髪にしテーマ曲や衣装を変え、そしてまたレインメーカーとして戻ってきたオカダ・カズチカは、もはや手のつけられないプロレスラーになっていた。

 

オカダ・カズチカはその強さゆえ孤独でもあった。ライバル関係となる選手が不在なのだ。たとえば、内藤哲也には目の上のたんこぶ、棚橋弘至がいた。その棚橋弘至には中邑真輔がいた。飯伏幸太にはケニー・オメガがいた。高橋ヒロムにはドラゴン・リーがいる。

 

過去を振り返れば、新日本では「闘魂三銃士」が台頭し出世争いに切磋琢磨し、全日本は三沢と川田に田上と小橋が「四天王」とくくられ死闘を繰り広げてきた。

 

もっと遡れば全日本ではジャンボ鶴田と天龍が、新日本では藤波と長州が、タイガーマスク小林邦昭が、根本を辿れば、アントニオ猪木ジャイアント馬場というライバル関係こそ日本プロレスの原点であった。

 

オカダにはライバルがいなかった。なんども肌を合わせ激闘し、勝利と敗北を繰り返すようなライバルが。それが、すべてを兼ね備えたオカダの唯一にして最大の弱点かもしれない。

 

しかし、5月4日、福岡は博多の地で、欠けていたピースが埋まることとなる。

 

この試合は始まりの合図

ニュージャパンカップの決勝戦で向かい合った2人が再び激突するIWGPヘビー級選手権試合。新日本にとって、新元号初のIWGP戦である。

 

入場し、マスクを取ったSANADA。髪型もコスチュームも変えていた。少し、「真田聖也」時代の雰囲気に戻ったような、まるでベビーフェイスのような出で立ちだった。

 

一方、観客の歓声が雨のごとく降り注ぐ中、オカダ・カズチカが花道に現れた。再びIWGPを腰に巻いたその姿は華やかで神々しい。IWGPがオカダのために作られたような錯覚すら感じさせる堂々たる佇まいである。

 

そしてゴングが鳴る。コールは五分と五分。試合序盤からクラシカルなレスリング展開が続く。両者の得意かつ好む展開である。

 

しかし、5連敗中のSANADAに焦りが全く感じられない。まさに「トランキーロ」焦らず急がず、まるでチャンピオンのような佇まいで、挑戦者特有の噛み付くような闘争心が見えない。「俺は挑戦者だがお前より格下ではない。」SANADAの主張が氷のような緊張感を通して伝わってくる。

 

試合はSANADAがあと一歩というところで勝利を逃した。試合後オカダは叫ぶ。

SANADAさん、俺さ、調印式の時に堂々と俺のことをライバルって言ってくれて凄い嬉しかったよ。だから俺もこの博多の大観衆の前で言ってやる。SANADAさん、あんた、俺のライバルだよ! 俺とあなたのライバルストーリーは始まったばかりだから。そして負けねえぞ、この野郎!!

 

まるで新しい友達ができた少年のような口調に、思わず頬が緩んでしまった。オカダはずっとライバルが欲しかったのだ。すべてを手にしたように見えたオカダのレスラー人生にやっと最後の、「ライバル出現」というピースがハマったのだ。

 

オカダ・カズチカとSANADA。二人が織りなす物語は始まったばかり。これから令和の名勝負数え歌としてファンの心に刻まれていくだろう。